ユーキャン新語・流行語大賞に2021年、ノミネートされた「推し活」という言葉を聞いたことがある人はほとんどではないでしょうか。
LINEヤフー株式会社が2024年4月に公表したプレスリリースによると、13歳以上の男女を対象に、今「推し」がいる/あるかどうか聞いた結果、全体の約6割が「推し」が「今、いる / ある」、約2割が「以前はいた / あったが、いまはいない / ない」、1割超が「いた / あったことはない」となったそうです。
今や2人に1人は「推し」がいる社会で、自分に合った「推し」「推し活」の形が見つかれば、それが日々の楽しみになったり、新しい人間関係ができるきっかけになるかもしれません。
アニメオタク歴15年以上の私が現在の「推し」文化について、調べ考えていきます。
推しとは
「推し」についてネットで調べると、下記のような定義が出てきます。
他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物。
引用元:goo辞典
つまり、他の人に紹介したい・勧めたいくらい好きな人やものなどを指します。
推しは必ず一人である必要はなく、アイドルグループやスポーツチームなど、複数人のグループやチーム自体をまとめて応援する「箱推し」という言葉もあります。
必ず一人に決めないといけない、ということはありません。
また、「推し」に当てはまるものは様々です。
- アイドル、歌手、バンド、俳優、モデル、スポーツ選手などの有名グループ・チームや人
- YouTuber、Tiktoker、配信者、Vtuberなどのネット活動者
- アニメやゲーム、漫画などのキャラクター など
似た言葉に「ファン」という言葉がありますが、ファンは「好きな人やチーム・グループを応援する人」を指し、推しは「好きな人やチーム・グループ自身」を指します。
似て非なる言葉なので、注意しましょう。
推しがいるメリット・デメリットについて考える
メリット
生活に楽しみが増える
推しができると、推しの活動が生活の刺激になります。
例えば、推しがアイドルだと下記のような活動と刺激があるでしょう。
- YouTubeの動画を見る
公開日を待つドキドキ、推しのダンスパフォーマンスを見て感動、バラエティー企画で推しとメンバーのわちゃわちゃを見て笑う、など - 音楽番組に出演する
番組開始を楽しみに仕事を頑張る、テレビの前でペンライトを持って待機、パフォーマンスに魅入って感動、Xでポストしながらファン同士の感想を読んで笑う、など - ライブが発表される
当選を夢見て申し込むドキドキ、抽選結果で一喜一憂する、グッズなど情報解禁を見る楽しさ、友達と語りながらうちわを作る楽しさ、ライブ会場で浴びる推しのファンサに興奮、など
推しがいるだけで、これだけの刺激や楽しみを生活の中で感じることができます。
この刺激の多さはアイドルだけでなく、たとえば漫画のキャラクターが推しだったら、新刊を楽しみに待ったり、アニメ化が決まればキャスティングや絵柄に一喜一憂したり、映画化が決まれば公開日に映画館に足を運んだりと、受け取る刺激は多種多様です。
学生も社会人も、ある程度同じスケジュールの中で生きており、物事に慣れていくと習慣化されて当たり前になって、刺激が少なくなりがちです。
そんな生活に花を添えるごとく、潤いを与えてくれる一つの手段が「推し」という存在なのです。
承認欲求を満たすことができる
推しが有名になると、同時に知名度が上がっていくため、承認欲求を満たすことができます。
その原理は、友人自慢・彼氏自慢など、自分と仲の良い人を自慢する心理に近いものがあります。
周りの方に、自分のことではなく、友人や彼氏・夫のすごい経歴・実績を自慢する人はいませんか?
その人は自慢できるようなものがなくても、「こんなにすごい人と仲良くできる」や「こんなにすごい人と結婚している」ということを相手に褒めてもらうことで自分が認めてもらい、承認欲求が満たしているのです。
推しも同じように、有名になると推しの可愛さやかっこよさ、すごいところなどが世間に認知されるようになります。
自身の推しをすごいと思う人が増えると、「その人の良さを発見して、好きになった自分はすごい」という感情につながり、承認欲求が満たされることにつながるのです。
特に、推しが有名になる前に応援しているファン、いわゆる「古参ファン」になると、その承認欲求の満たされ方が大きくなります。
たとえば有名な絵画があったとして、書いた人も有名になりますが、その絵画の価値を見出した人も同時に尊敬されます。
推しが成長して有名になればなるほど、「有名になる前に知っていた自分」が価値となり、承認される要素になります。
推し仲間ができる
心理学に「類似性の法則」というものがあります。
恋愛心理学などを調べたことがある人は、見たことがあるのではないでしょうか?
類似性の法則とは
自分自身と共通点が多いと、好感や親近感を持ちやすいという心理効果のこと。
共有点は見た目などの身体的特徴だけでなく、価値観や性格、言動、思考回路などの内面的な要因、経歴(学歴や経歴など)の要因などもある。
アメリカの心理学者であるドン・バーン氏とネルソン氏が1965年に提唱した。
ライブ会場で隣に座った見ず知らずの人と友達になり、果てには結婚したというエピソードを持つ人もいるくらいです。
つまりは、「推し」が類似性の法則における「共通点」になるということです。
自分が好きになったものには、人も惹きつけるポイントがあります。
なので、同じように惹かれて好きになる仲間はどこかしらにいるものです。
特に今はSNSが発展した社会なので、ネットで少し調べれば自分と同じものを好きな人を見つけることができます。
その人の投稿やコメントを見るだけでも、自分の気持ちを分かち合うことができ、孤独感は薄まります。
ライブなどのイベントに行けば、同じものを応援する人と交流する場が増えるので、今までの生活にはない出会いの機会に恵まれるかもしれません。
自身のメンタルケアにつながる
著書「セルフケアの道具箱」を書いたカウンセラー歴30年の公認心理師・伊藤絵美さんは、毎日新聞の取材の中でこのように話しています。
「推し活」は究極のセルフケアと言えます。セルフケアとは、自分で自分をケアすること。メンタルの不調から回復するための鍵を握っています。
うつ病や不安障害などメンタルヘルスが低下している人は、自分に注意を向けすぎる「自己注目」といわれる状態に陥りやすい。「なぜ自分はこんなにダメなのだろう」などとネガティブな思考が頭を巡り続ける「ぐるぐる思考」の沼からはい上がれないのです。
しかし「推し活」を始めると、注意が自分ではなく、自分の外側にある「推し」に向く。そのことで「自己注目」を軽減できるのです。
2022年2月10日掲載 毎日新聞デジタル
推しという他者のことを応援するために起こす行動は、ポジティブな行動・感情に繋がっていきます。
前向きな行動がふえると、それだけでメンタルケアになります。
また、仕事や勉強などのストレスからリフレッシュするには、それらを考えない時間を作ることが大切です。
推しが出演する動画やドラマ、アニメを見る、イベントやライブに足を運ぶなどの好きなことをする時間に浸ることで、普段のストレス源から距離を置いて休息でき、次の日から頑張る活力につながっていきます。
デメリット
推し活の方法によってはお金がかかる
たとえば推しがアニメキャラだった場合、下記のような出費が考えられます。
※下記はあくまでも参考価格としてご覧ください。(作品によって価格は千差万別です)
- 推しが出ているアニメのDVD・ブルーレイディスクを購入する(およそ4,500円〜15,000円)
※アニメ全話が見れる「全巻セット」だと、10万円ほどする代物もあります。 - アニメの原作漫画を購入する(500円程度〜)
- アニメの劇場版を見に行く(1,000円〜2,200円程度)
- 推しのアニメグッズを購入する(およそ500円程度〜)
- アニメイベントに行く(2,000円程度〜22,000円)
- アニメのイラスト展に行く(〜5,000円程度)
- アニメのコラボカフェに行く(2,000円程度〜)
オタクの中にはイベント抽選のために同じCD・DVDなどを大量購入する人や、同じ推しキャラの缶バッチを数十個集める人もいます。
どのくらいの価格のものをどのくらい購入するかにもよりますが、下手をすれば数十万・数百万円をかけて推し活をすることもできるのです。
ダイエット中なのに疲れた時に寄ったコンビニで見てしまったスイーツをついつい買ってしまうように、好きなものを前にした時はお財布の紐は緩みがちになるものです。
「心理的財布」という考え方があるのですが、それぞれの価値尺度によって決まる「購入する満足感」と「出費する痛み」のバランスによってお金を使うかどうかが決まります。
グッズによってはイベント限定などその時にしか手に入らないものもありますから、「今買わないと後悔するかも・・・!」と衝動買いすることが、私もしょっちゅうあります。
ホストにハマる女性の心理と似ていると言いますか、のめり込みすぎると怖い世界だなと私も思います・・・。
個人的なおすすめは、
- 家計簿アプリなどで予算を組み、一定期間内で推し活に使える金額をあらかじめ決めておくこと
- 購入する際に迷ったら、「買ったら本当に使うのか?タンスの肥やしにならないか?」ということを考えてみる
- 【松井玲奈さん式】収納するボックスを決めて、それに入る範囲でしかコレクションしない
私は家計簿アプリに「マネーフォワード ME」のアプリを使用しているのですが、毎月の予算が組めるのでおすすめです。
また、松井玲奈さんのやり方は私にとっても目から鱗な方法だったので、詳細が知りたい方はYouTube動画ををご覧ください!
もちろんですが、必ず高額なお金をかけないと推し活ができないわけではありません。
アニメならテレビで放送を見る、原作漫画を漫画アプリで無料で読むなど、そこまでお金をかけなくてもできることはあります。
あなたの財政状況にあった推し活をしましょう。
逆にメンタルが疲れることも
推しから受ける感情はポジティブなものだけではありません。
誰かを応援していれば、下記のような場面に遭遇する可能性もあります。
- 推しに犯罪行為、熱愛報道などのネガティブなニュースが出た
- 推しが出ている漫画・アニメが最終回を迎え、ロス状態になる
- 推しが怪我や病気で活動休止した、引退した など
推しも人間です。それは漫画やアニメなどの二次元キャラクターも同じ。
人生の中で喜ばしい出来事もあれば、悲しい出来事もあります。
特に二次元キャラだと多いと思いますが、推しが亡くなってしまうことだってあります。
また、相手も自分ではない他者なので、自分の思い通りには動きません。
極端な話ですが、可愛い推しが好きだけど男らしくマッチョに生まれ変わったり、かっこいい推しが好きだけど女装に目覚める可能性だってあります。
そんな時、大好きなはずの推しを受け入れなくなって、自分が苦しむことがあります。
推しの嫌な行動に怒ったり、呆れたり、泣いたり・・・。
無関心であれば起こり得ない感情は、好きだからの裏返しでしょう。
もし推しのことを考えると辛くなるようなら、推しと距離を置いたり、「降りる」ことを検討してみてください。
「降りる」とは、推すことをやめることです。
良いところでも、少し切ないところでもありますが、推し活はあなたから推しへの一方通行な活動です。
推しを応援する行為の主体はあなたなので、降りることもあなたの自由です。
時々降りることに罪悪感を持つという心優しい方がいますが、そういう方はイベントやライブに行くのをやめてみる、音楽を聴くだけにするなど、徐々に距離を取るのが良いかもしれませんね。
「推し活は楽しんでこそ、あなたの心を犠牲にしてまでやることではない」と私は思います。
また、推しがアニメキャラなら他のアニメを見てみる、アイドルなら他のアイドルグループやアーティストの曲を聞いてみるなど、他のものにも目を向けてみましょう。
意外にあっさりと新しい推しが見つかるかもしれませんよ。
推しの見つけ方について考える
推しのメリット・デメリットを正しく理解し、推しが欲しくなった方は下記の方法を試してみてください。
- テレビ番組を見る
ニュース・ドラマ・バラエティ番組など、なんでも良いので好きなジャンルの番組を見てみてください。
そこでよく目につく芸能人がいたら、興味がある証拠かもしれませんので、スマホやネットでその人のことを調べてみましょう。 - YouTubeやTikTokなどのSNSを見る
SNSは趣味・嗜好がアルゴリズムで表示されるようになっているので、目につく動画を見てみましょう。
よく見るYouTuberやインフルエンサーがいたら、チャンネルに行って他の動画を見てみるなど、深堀してみましょう。 - アニメや漫画を楽しむ
気になる作品があったら、とにかく見てみましょう。
物語に没頭していくうちに、少しでも好きだと思うキャラがいたら、キャラのことを調べると新しい発見があるかもしれません。 - 家族や知人に推しを紹介してもらう
一番は「この人と好みが合うことが多いな」と感じる友人の紹介です。
逆に友人もあなたのことをよく知っているでしょうから、あなたに合うと思うコンテンツを紹介してくれることでしょう。 - アーティストのライブやスポーツの試合を見にいく
少しハードルは高いかもしれませんが、気になったら一度現地に行くと、現地の空気やファンの熱気で一気にのめり込むことがあります。
やはり生の空気というのは格別です。すぐに推し仲間も見つかるかも?
ポイントは、気になったらすぐにネットやSNSなどで調べてみること!
恋人や過去に恋愛的に好きなひとを思い浮かべてみてください。
『勇気を出して話しかけてみて、その人の好きなものを知ったり、ふと観察しているうちに意外な一面を知って、気づいたら好きになっていた』という人は多いのではないでしょうか?
推しも同じです。
最初の第一印象も大事ですが、その人のことや調べていくうちに、出身地や好きなものが同じなどの共通点、意外な一面やギャップなどを知るうちに、気づいたら好きになっているのが「推し」だと、私は考えています。
今はネットやSNSで情報が溢れている時代です。
アイドルなら公式HPに基本プロフィールや本人のSNS、パフォーマンス映像などを見ることができますし、俳優ならNetflixなどのサブスクで名前を検索して出演作品を見ることだってすぐにできます。
少しでも気になったらすぐに調べてみることが、推しを見つける第一歩です!
推し方について考える
好きな人やものを推すスタイルには、様々なタイプがいます。
私の独断と偏見で、タイプ別にまとめてみました。
- 超重量級の一途「単推し」タイプ
この世界で推しが一人しかいないタイプです。
ずっと同じ人を応援している人もいれば、一人ずつ乗り換えていくタイプがいます。
※「単推し」とは、オタク用語で複数の人やキャラクターがいる中で、そのうちの一人を好きになること・推すこと。 - 世界を超えて一夫多妻「作品・グループ別単推し」タイプ
単推しの中でも、作品ごとやグループごとに推しがいるタイプです。
好きな漫画やアニメが増えれば、それぞれの作品で好きなキャラが生まれてしまうもの。
アニメオタクなどに多いかもしれませんね。 - 組み合わせが生む無限の魅力「コンビ推し」タイプ
複数人いるグループやチーム内のメンバーや芸人など、特定の二人組を推すタイプです。
推しそれぞれも魅力もさながら、幼馴染や同じ学校出身など、背景にある二人のストーリーが相乗されると魅力が倍増!
マイナーなコンビを好きになると、供給不足になる可能性も・・・? - 博愛主義な「箱推し」タイプ
複数人いるグループやチーム全員や、そのグループ自体を愛して推すタイプです。
そのアイドルの雰囲気が好きな人や、グループだからこそできるものを好きでいる人が多いイメージです。
推しは必ずしも一人に絞ることはないので、あなたに合った形を見つけることをおすすめします。
「好きなグループやチームはあるけれど、推しを決められない!」という人は、ぜひ「箱推し」から入ると良いです。
そのグループやチームの活動を追っていくうちに、「この人に目が行くな・・・」と、特定の推しに気づくかもしれませんので、心のままに推し活をしましょう。
もし他のタイプをご存知の方がいらっしゃいましたら、コメントで補足していただけると嬉しいです!
まとめの考察:「推し」は現代の宗教?
推しは宗教における神様に近いと、私は日頃感じています。
宗教は詐欺のようにお金を没収するなどの被害に遭ったり、ハマって人生が狂うようなイメージが強いと思いますが、本来の意義の一つに「精神の安定」があると考えています。
普段、特定の宗教を信仰していなくても、神社やお寺に行ったら神様にお願い事をすることは普通だと思います。
自分が不安な時、よくないことが続いていて苦しい時、自然と神頼みする人は多いのではないでしょうか。
神様という指針を持つことで、心の安定を図ることができることは、宗教の本来あるべき良い側面です。
また、宗教は人生の目的や意味を探求する手助けをしてくれます。
信仰を持つことで、困難な状況に対する理解が深まり、希望を持つことができるようになります。
推しも、宗教の神様に似ている部分があると思うのです。
推しのグッズを飾って「祭壇」を作ったり、本人がいるわけでもないのに誕生日を祝ったりと、神様のような扱いをしているところがあります。
現代の宗教が変化した、新しい形が「推し」なのかもしれません。
ただ、私は宗教だろうが推しだろうが、心の安定を保つことができて、日々に潤いができるならどちらでも良いと思います。
日々に色合いを感じない方、仕事と家の往復で物足りない方にこそ、推しを見つけて日々の楽しみの一つにしていただけたらと思います。